「あーもう…みなさんまとめて陣痛でも起こしませんかね…」 ふと漏れてしまったつぶやきに、しまった、と思うも聞き咎める人はなく喧騒の中に沈んでゆく。 (西欧の方達は本当に騒ぐのがお好きだなぁ) 今度の呟きは声に出す事なく己の心の内だけでささやく。 今夜は親睦会という口実の飲み会で各国の面々と店を貸し切りパーティーを開いている。 どちらかというと、しっとりと月でも眺めながら無言で呑む事を好む日本は一人ホールの隅でちびりちびりと杯の酒を舐めていた。 「日本〜飲んでるかぁ〜」 そう言って覚束ない足取りで近づいて来たのはイギリスである。 ずっと見ていたわけではないが、彼は既に片手で足りないくらいのグラスを空にしているはずである。酒好きではあるが、酔うと少し羽目を、いやかなり大分外すほうで、かといって酔っているときの記憶が無いわけでもないらしく、よく翌朝鬱になっているようである。 (何か普段抑圧されているのでしょうかねぇ) 頂いてますよ、とグラスを上げれば俺もーと陽気にグラスを上げた。それはそうだろう。 「日本〜ワインどうよワイン」 顔色がワインですよ、フランスさん。 …とは声に出さず人当たりの良い笑顔を向けた先には、渋味ばしった美丈夫が立っている。彼の家のワインは国民に特に人気でよく購入させてもらっている。 だがしかし、葡萄酒文化圏外の日本には時々理解の及ばぬこともあるほど深淵である。けれども恥を忍んで尋ねれば快く教授してくれる気さくな人物である。情緒的すぎて余計に分からなくなることもあるのだが。 「酔っ払いは見苦しいぞ!」 そう言って現れたのはアメリカであった。 アメコミヒーローの主人公のようにポーズを決める彼の手にはコカ・コーラ。近年彼の家では21歳以下の飲酒が規制され、人間の年齢で言うと19歳ということになっている彼もこういう場ではソフトドリンクだ。 もちろん彼の家も広大な国土と肥沃な大地が多種多様の酒精を育んでいる。ワインビールはもちろん多種多様のスピリッツ、リキュールと枚挙の暇がない。 それにしても目の前に揃い踏みした面々はかなりやかましい部類に入る。 「てめーは育ててやった恩も忘れてデケー顔しやがって…うっ(吐き気)」 「またその話?何度目だい?君はアルツハイマーの検査でもするべきだよ」 「お前もこんなアル中よりエレガントなお兄さんに育てられたかったよなあー?」 「あはは死んでも御免だね!」 等々滔々… (遠くでやってくれませんかね…) ズキズキと頭が痛む気がする。 彼らほどまくし立てるように話すこともできないし、とりたててする話もなく自然と杯に口をつける頻度が高くなる。逃避したかったのかもしれない。普段は軽い酩酊で止めておくのだが、今夜ばかりは場の雰囲気に先に酔ってしまったようだ。 「…る…い…すよ…」 「ん?」 「日本、なんだって?」 「うるさいんですよあなたたちはぁーっ!」 「にっ、日本っどうしたんだい!?」 急に口を開いたかと思えばいつになく激昂している様子に、思い思いに叫びあっていた三人がたじたじになる。 「あなたたちには情緒というものはないんですか!もっとゆっくりじっくり味わわなければ酒に失礼です!」 「おい、日本飲み過ぎたんじゃないのか…?」 「そんなことありません!至って素面です!」 酔っ払いの常套句を小気味よく言い放つ日本の様子に、珍しいものを見るような視線がみっつ。普段大人しい分ギャップが新鮮なようだ。 「いったい何を飲んだんだい?」 アメリカがニコニコと聞いてきたのでスターン!と手に持っていた猪口をテーブルに置いて言い放つ。 「日本の匠の技術の結晶、日本酒です!」 「あっ、それ空になってたから僕が継ぎ足しておいたよ」 ハートマークでもつきそうなくらい楽しげに割り込んで来たのはロシアであった。 「中身はね、もちろんウォトカー!」 「「「えええええ」」」 残念ながら日本の記憶はここで途切れた。 後日いたたまれなさで身を小さくして顔を出したとき、彼ら(とくにイギリス)はまるで戦友にでも向けるような暖かい態度で日本を迎えたという。 大変お待たせいたしました!酒ネタです! うざいくらいにうんちくですみませ…!米を出張らせてみました。 本家様で英に飲みに誘われていましたが、酔っ払っている印象がないのと19歳という設定から飲ませずに出しました。 |