豪奢な装飾が施された扉を開けると、むわり、と臭気が漂う。

―阿片だ。

阿片吸引用の煙管を持ち、長椅子にだらしなく身を投げ出した彼の姿を目にすると言いようの無い衝撃を覚えた。
凛としていた目は落ち窪み、こけた頬に艶の失せた黒髪が掛かり落ちている。皺の寄った絹の袍は、常にはきちんと留められていた襟元がはだけて土気色の肌を覗かせている。かつては象牙に例えられたそれの変わりように心が痛む。
彼は扉を開けて入って来た日本に気付く様子もなく虚空に視線を漂わせている。幸せな幻影でも見ているのであろうか、生気の無い虚ろな微笑を浮かべていた。
「中国さん…」

呼び掛けには応えない。



眠れる獅子と謳われた彼を、阿片で貶め食い物にした列強に日本は強い憎しみを抱いた。

―とんだ張り子の虎よ―

そう嘲笑いながら彼の体を蹂躙した彼等を、日本は止める力を持たずただ端から眺めていなければならなかった。
今も思い出してはらわたが煮え繰り返る。



強大な力と富で、東亜を支配していた彼の姿を瞼の裏に焼き付けてきた。
兄のように慕い、いや、彼の隣で肩を並べられるような国に成りたいと、千年よりも昔から思い続けていたというに…
あと少しという所で!
そう思い、日本が唇を噛み締めたとき、ふと視線がかちあった。

「…中国さん?」

問い掛けにはっきりと笑みを浮かべ応えた彼に、幼き日の出来事を思い出し、心を弾ませた。
鷹揚な微笑みは少しも色褪せていない…!

しかし―



「新しく生まれた国あるか?」

衝撃のあまり大地が揺れたかのように感じた。

「我は中国ある。お前は?」

彼は、あのときのままではない。かつてに退後してしまっているのだ―

幸せな夢の中で彼は、列強に踏みにじられるずっと前、栄華を誇ったあの頃に逃げ込んでしまっているのだろう。
力無く伸ばされた手に、日本は思わず後ずさりした。
忌まわしき阿片はこれほどまでに彼を蝕んでいるのか…

絶望に暮れる日本から視線を外し、中国は次の夢に心を移す。ひらひらと腕が宙を舞う。
めくれ上がった袖から酷く筋の浮いた彼の腕に、今だ消えぬ蹂躙の痕を見つけ、日本はまた暗い情念に駆られる。
かつての、己が憧れ、目標として励んだ彼はもういない。
ここにいるのは壊されたただの哀れな一人の男。
名残だけが亡霊のように、帝国主義が支配する現世をさ迷っている。
これ以上列強の思うがままにされる彼など見たくはない。これはあまりにも残酷だ。

彼と、彼を慕った己とに。



ならばいっそ、いっそこの手で。

壊し尽くしてしまおうか。























激しく日中妄想してみた。
あんま勉強してないので色々間違ってるかも。すみません。
世界史の授業でアヘン戦争のときの中国が「眠れる獅子と思われていたが、張子の虎であったことがばれてしまった」と表現されててダダ萌えしたんですが、うまく表現しきれてないですー。ああー。